黒姫山
マイコミ平

1991年6月16日

長谷川美行他25名

 新潟県の南西部に広がる黒姫山から明星山にかけての一帯は、今から3億年前ほどにできた石灰岩でできている。その石灰岩を掘り出してセメントをつくる企業が大規模にこの山を掘り崩しつつある。その様子を見学して、環境保全の大切さを確かめようという見学会があり、参加した。

 前日の15日に、糸魚川の早川沿いにある「星の館(やかた)」に集合。宿で、スライドを使っての長谷川教授の講義があり、豪雪地に発達したカルスト地形の特殊性、重要性を学んだ。

 16日は、八時に宿を出発。糸魚川市街を抜けて、青海町に入る。田海川に沿って、南下し、石灰岩の採掘事務所を通り過ぎ、石灰岩を工場へ運ぶ巨大なベルトコンベアの下をくぐり抜ける。道がつづら折れになると右手に福来ヶ口(ふくがくち)鍾乳洞の入口が見える。洞窟の入口から20mほど上はもうすっかり採掘され、まさに洞窟の入口だけが残されたという状況だ。流れ出す水が壮大に滝となっていたという下部もすっかり土砂で埋まってしまっている。急な坂道を登ると、柵があって、それ以上車は通行止め。

 車を路肩に寄せて歩き始める。小雨で対岸は何も見えない。急な登りが続く。舗装のしてない自動車道は、水で侵食され、深い溝ができている。車はとても通れない。突然目の前が開ける。土砂崩れで20mほど道路が切れてなくなっている。用心してロープを張って渡る。しばらくして200mほどのトンネル。一直線で前方から霧が流れ込んでくるのがわかる。

 トンネルを出て左折する。ここからは、等高線に沿って進ので緩やかな登りになる。右手下に田海川があるのだが、このあたりは伏流になっていて水はないという。こんな奥に舗装道路がと不審に思って見ると、大きなトンネルがぽっかりと口を開けている。このトンネルは、黒姫山の頂上まで続き、山頂近くで石灰岩を露天掘りするための工事用だと聞いてびっくりする。黒姫山の内部は、トンネルだらけとか。道路のいたるところに石灰岩があり、珊瑚やフズリナの化石がたくさん見られる。

 小さなドリーネがあり、「環境保全地域」を示す立て看板がある。いよいよマイコミ平の入口だ。「大マイコミ」とか「新マイコミ」とかがあるが「マイコミ」とは、「水が地面に舞い込む場所」という意味だそうだ。その説明の通り、流れてきた谷川の水が地面に吸い込まれている。この水は、伏流となって約3km下流の福来ヶ口で陽の目を見るのである。谷川のほとりで昼食にする。

 昼食後、深さが405mあるという青海千里洞を見に行く。急な斜面をロープにつかまって約50m下降し、雪の詰まった大きなドリーネに降りる。対岸に渡るとキバナノコマノツメが群生している。ここは標高650m程であるが豊富な残雪と洞から吹き上げる冷涼な空気によって高山植物が生育している。数m登ると残雪の向こうに千里洞が陰湿な口を開けていた。

 さらに沢に沿って上に行くことにする。小さなドリーネが連なっていて残雪で覆われているが、底無し穴が開口しているのでうっかり歩けない。ザゼンソウがあちこちに咲いている。風化した石灰岩の泥に足をとられながら一登りすると、今度は深さ513m、長さ1063mの白蓮洞である。これは日本で一番深い竪穴だそうだ。洞の開口部は、岩の橋が架かっていてちょうど二つに分かれている。千里洞よりは狭い。左手から下りてくる沢を登る予定だったが、洞の開口部の崩壊が進み、通過は危険なのでここから引き返すことにする。昼過ぎから小雨は止んだがガスが濃く、樹林も深いためなんとも陰険な感じのするところである。

 昼食をとった谷川に戻り、もと来た道を戻る。霧がますます濃くなり、視界が2〜30m程になる。バラバラにならないようにという注意が飛ぶ。タラノメ、ミズナ、フキなどの山菜をみやげに採りながら、車まで戻る。

 霧で石灰岩の採掘現場は見ることができなかったが、すばらしい自然に接し、これを一企業の利潤のために破壊させる訳にはいかないと思いながら帰路についた。


登山記録トップ 年代順目次へ 山域別目次へ 写真のページ