新上越市での
地域自治組織について



2005年7月28日
上越市議 杉本敏宏

1.上越市の地域自治区
(1) 地域自治区は、地方自治法(以下、自治法)第202条の4合併特例法(以下、特例法)第5条の5の2種類があり、他に特例法で規定された「合併特例区」があるが、新上越市に設置されたのは、特例法に基づく地域自治区である。
(2) 将来全市域に、自治法による永続的な地域自治区を旧上越市の地域も含めて全市的に設けることになっているため、特例法による設置期間は平成21年12月31日までの5年間とされている。
(3) 旧上越市の地域での地域自治区の準備が2005年1月1日の合併までに間に合わないため、当面、特例法により時限的に設置し、旧上越市の地域での準備を整えて自治法の地域自治区に移行することになっている。この準備のために、旧上越市の地域内で「地域コミュニティモデル地区検討事業」が取り組まれ、同時並行的に自治基本条例制定に向けた準備が進められている。近い将来、旧上越市の地域でも地域自治区が設けられ、地域協議会の委員選挙が行われることになる。
(4) 新上越市での議員選挙は、次のように行われる。
2005年2月の増員選挙 旧町村の人口割で、定数1〜3の小中選挙区による選挙。
増員議員総数18。総定数48。
2008年4月の通常選挙 上記に加え、旧上越市の地域で定数30の議員選挙。
総定数48。
2012年4月の通常選挙 新上越市を一区とした総定数38での選挙。
 そして、これらの市議選と同時選挙で地域協議会委員候補の選挙が行われる。従って、最初の委員選挙は、2005年2月の増員選挙と同時に行われた。

2.区長は置かない
(1) 特例法第5条の6で「特に必要があると認めるときは、…地域自治区の事務所の長に代えて区長を置くことができる。」となっていて、事務所長か区長のどちらかしか置けないことになっている。事務所長は市職員だが、区長は特別職であることから、上越市では区長ではなく事務所長を置くことになっている。
(2) 同条2項で「区長は、…合併市町村の長が選任する。」となっていて、放置しておくと旧町村長が区長に横滑りする可能性が強い。
 旧町村長が区長に横滑りし、旧町村にそのまま君臨する可能性を排除するために、「区長は置かない」ということになった。
(3) 13町村長の一部から、「区長を置け」という巻き返しが起きたが、「区長を置く」ことが困難になったため、「地域相談役会議」が設置された。しかしこれも、3月議会での大激論の末、2005年8月で廃止されることになっている。

3.地域自治区に地域協議会を置く
(1) 地域協議会は、自治法第202条の5と特例法第5条の4では「地域審議会」を設置することができることに、特例法第5条の7で合併特例区を設けることができることになっている。新上越市では、特例法に基づく「地域審議会」を地域協議会という名称で設置した。
(2) 設置するのは特例法の「地域審議会」であるが、実際の運用は自治法の地域協議会に基づいている。
(3) 将来的に自治法による地域自治区が設けられた場合には、自治法による地域協議会に移行することが想定されている。
(4) 自治法の地域協議会の権限については、第202条の7で規定されている。
(地域協議会の権限)
第二百二条の七 地域協議会は、次に掲げる事項のうち、市町村長その他の市町村の機関により諮問されたもの又は必要と認めるものについて、審議し、市町村長その他の市町村の機関に意見を述べることができる。
一 地域自治区の事務所が所掌する事務に関する事項
二 前号に掲げるもののほか、市町村が処理する地域自治区の区域に係る事務に関する事項
三 市町村の事務処理に当たつての地域自治区の区域内に住所を有する者との連携の強化に関する事項
2 市町村長は、条例で定める市町村の施策に関する重要事項であつて地域自治区の区域に係るものを決定し、又は変更しようとする場合においては、あらかじめ、地域協議会の意見を聴かなければならない。
3 市町村長その他の市町村の機関は、前二項の意見を勘案し、必要があると認めるときは、適切な措置を講じなければならない。
(5) 上越市の地域協議会には、法の規定に加えて「地域自治区に関する協議書」で次のように規定され、多大な権限が与えられている。
(地域協議会の権限)
第8条 地域協議会は、次に掲げる事項のうち、市長その他の市の機関により諮問されたもの又は必要と認めるものについて、審議し、市長その他の市の機関に意見を述べることができる。
(1)地域自治区の事務所が所掌する事務に関する事項
(2)前号に掲げるもののほか、市が処理する地域自治区の区域に係る事務に関する事項
(3)市の事務処理に当たっての地域自治区の区域内に住所を有する者との連携の強化に関する事項
2 市長は、上越地域合併協議会が作成した新市建設計画を変更しようとする場合及び市の施策に関する重要事項のうち次に掲げる事項を決定し、又は変更しようとする場合においては、あらかじめ、地域協議会の意見を聴かなければならない。
(1)地域自治区の区域内の重要な公の施設の設置及び廃止に関する事項
(2)地域自治区の区域内の重要な公の施設の管理の在り方に関する事項
(3)市が策定する基本構想等のうち、地域自治区の区域に係る重要事項
(6) 従って、旧町村においては、地域協議会というのは大きな役割と権限をもつことになり、また、今後の地域自治、住民自治にとって重要な役割を果たすことになる。ここに日本共産党が一定の地歩を占めることは大変大きな意義がある。この地域協議会を保守系のボスの支配下に置くことはできない。
(7) この間、ある地域協議会で市長の諮問以外の事項を審議したが、「協議書」の内容の理解不足から混乱を生じた。その後、「協議書」の方向で修復された。
(8) 地域協議会のこのような権限を活用すれば、地域協議会で合意し具申すれば、市長にはそれを執行する義務があるので、上越市議会においては少数で否決されるような地域要望であっても、実現することができる。ここに上越市の地域協議会の最大のポイントがある。

4.地域協議会の委員は、選挙で選ばれた候補を市長が任命する
(1) 特例法第5条の4第2項では、「地域審議会を組織する構成員の定数、任期、任免その他の地域審議会の組織及び運営に関し必要な事項については、合併市町村の協議により定めるものとする。」となっているが、新上越市では、概ね、自治法第202条の5第2項の規定「地域協議会の構成員は、…市町村長が選任する。」にそって選任されることになっている。
(2) 「市長が選任する」となっていることから、放置しておけば市長の恣意的な選任が行われることになる。実際、旧町村では、公費を大量につぎ込んで全戸対象のNPO(地域自治組織)を設立するなど様々な形で現在の町村の支配体制を残す試みがなされており、そうした組織の中心メンバー(いわゆる地域の大物や保守系のボス)が自動的に委員になる道をつくろうとし、そしてこのことによって、日本共産党を地域協議会から排除しようとする動きが強まっていたが、「選任選挙」によってこのもくろみも打ち砕かれた。
(3) 委員候補者数が定数に満たない場合は、「委員資格者(注、当該地域の被選挙権者)の中から委員を選任する。」となっていて、この場合には問題を残す規定になっている。「選任の基準」を設けるように主張している。
(4) 欠員を生じた場合も「委員資格者の中から委員を選任する。」となっているが、この場合には、次点以下の繰り上げが考えられ、その規定を盛り込むように主張しているが、現状では実現していない。
(5) このように一定の不十分さを持ってはいるが、「地方自治の壮大な実験」である意味は失われていない。

5.新上越市での地域自治区や地域協議会のもつ意味
(1) 地域自治区に区長を置かず、地域協議会の委員候補を選挙で選ぶという制度は、旧上越市の地域の議員団が早い時期から強く主張してきた。法定合併協議会事務局もこうした方向で事務局案を作成し、上越市議会の大勢の意見となった。そして、上越14市町村合併協議の中で、合意され実現したものである。
(2) この制度(区長を置かない。委員候補者の選挙。)は、次のような目的をもっている。
地域協議会をより民主的に運営する。
編入地域住民の不安や新市への要求を民主的に吸い上げる。
保守系のボス支配を排除する。
(3) もちろん地域協議会は、市長の「諮問機関」であるし、審議会的な要素をももっており、過大評価することはできない。旧町村選出の市議会議員が、地域協議会の委員を使って地域支配をしてくる可能性もある。
(4) 「区長を置かない」ことから、地域協議会の会長の役割が重要になってくる。この会長は、委員の互選で(議会の議長選挙のように)選出されることになっている。従って「議会で多数派になる」のと同様に、地域協議会の中でわが党が多数を握れば、その地域の行政執行に重要な影響を持つことができる可能性がある。
(5) こうした制度は現在、全国でも新上越市だけである。他の合併市町村でも地域自治区や地域協議会を設ける場合、こうした制度を確立する必要があるし、少なくとも「委員候補は公募」を主張し、実現すべきである。

6.地域協議会委員選挙に日本共産党が打って出る必要がないか
(1) 以上のように、新上越市で行われる地域協議会委員選挙は、大きな意味をもち、そこにわが党が打って出る意義は十分にあるものと考える。
(2) 市町村合併によって、「地域の利益をまもる」傾向が強まることが指摘されている。地域協議会は、「地域の利益をまもる」場としての役割を果たせるものと考える。
合併そのものに『賛成』『反対』という立場のいかんに関わらず、住民の不安が現実的なものになる。
住民の選挙への意識の独特の特徴――多くの有権者が地域の先行きに不安をもち、選挙での選択肢が『地域の利益をまもる』ことにおかれる傾向が極端に高まる。(市町村合併にともなう地方議員選挙の経験交流会議への問題提起)
(3) この委員選挙は市議選と同日選挙であることから、わが党にとっては、「力が分散される」ことが懸念される。ここに「制度はつくっても実質日本共産党を排除する」という保守派の思惑が作用している。逆に「市議選を有利にたたかうために、委員選挙もたたかう」ということも考える必要があるのではないか。
(4) 「地域協議会は保守派が住民を支配するための組織だから、そこに日本共産党が出て行くことにどれだけの意味があるか」という考えもある。「保守派の支配」は地域協議会の一つの側面だが、それは議会でも同じで、わが党が進出することによって、住民の要求を実現する場に変えていく必要があるのではないか。
以上