外の寒さとは裏腹に、蒸し暑い夜だった。4時前からゴソゴソと動き出す人たちがいて安眠を妨げられた。われわれは「陽が上がり暖かくなってから動こう」ということで出発予定時刻は7時なので、ゆっくりと起きて朝食をいただく。
外に出るとどんどんと下山して行く人の姿が見える。テントを撤収している人も多く、パノラマコースにも人の列が続く。
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北穂高岳南稜を登る人は少ない。小屋の右手からいきなりの急登が始まる。ちょっと面食らったようだ。ぐんぐんと高度を稼いで行く。涸沢のテント村が小さくなり、前穂北尾根が大きく見えるように変わって行く。鎖場で下山者が渋滞しているのが見える。二人連れが東稜へ向かっていった。
鎖場の上に下山者が固まっていた。一般的には登りよりも下りの方が「怖い」のだろう。小屋を出た時は少し寒さを感じたが、もうここまで来ると暑さを感じる。北穂小屋への分岐までは、ずっと下山者と行き違う。
花谷ガイド(信大山岳会OB)のブログに「北穂小屋のコーヒーは美味い」と書かれていたので、味わってみることにした。槍ヶ岳や表銀を見ながらのコーヒーは格別だ。
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東稜をあがってきたのはその花谷氏だった。
「信大繊維の杉本です」
「涸沢小屋で、そうじゃあないかなと思っていました。人違いだと迷惑だと思って・・」
「私らは今日は穂高岳山荘泊まり。明日は前穂から岳沢に降ります。これからどちらへ」
「同じ山荘に泊まります。明日は奥穂から天狗を下ります」
「じゃあまた、小屋で」
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「最低鞍部まで下るのが勝負どころ」と思っていたが、実際そうだった。登りよりも下りの方が恐怖感がわくからだ。その恐怖感を払拭しようとするかのように、必至でついてきている。しばらく行くと、岩陰から若い男性が顔を出した。
「ここ、涸沢槍ですよね」
「涸沢槍は、最低鞍部を越えて登ったところだよ」
「エエエーーッ、違うのか」
小屋を一足先に出た人だった。こういう人でもこの時期に登ってくるのか。
陽あたりと日陰では、天と地ほどの違いがある。滝谷を登っているクライマーの姿が見えた。
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最低鞍部からの登りにかかる。所々に残雪がある。鎖に掴まり、足場を確認して、そして息を切らして・・・。涸沢槍はやはり「何時通ったのかな」という感じで、涸沢岳の頂上に出た。二人の人がいた。標柱の近くにいた青年が場所をあけてくれながら「上高地からザイテンを通って、奥穂に登ったけど時間があったのでここまで上がってきた」と話してくれた。
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穂高岳山荘までの下りは、緊張感が程よく解けて、楽しく降りた。
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小屋での宿泊手続き。「個室8000円ですけど、どうですか」という。みなに聞くと「一人1600円だから、個室にしてみよう」ということに。涸沢小屋の混雑がウソのようだ。
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