夜中、風が強く吹いていた。目が覚めるたびに、明日は大丈夫かなと思った。
朝、涸沢側が明るいので、「飛騨側から吹き上げてくる風だな」と確信した。吊り尾根に入れば、風はなくなるだろう。
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「少しでも暖かくなってから」と出発をぎりぎりまで遅らせる。雨具を着込んで登り始める。奥穂の山頂までは、右側から冷たい風が吹き付けて、鉄のハシゴやクサリを掴む手の指が痛いほどだ。頂上を往復して戻ってくる人とすれ違う。
風に抗して頂上に立つ。昨日来た北穂高の先に、槍ヶ岳がそびえている。御岳、乗鞍、焼岳が、うっすらとたなびく雲の上に見える。前穂・明神岳の上に、南アと富士山がうっすらと見える。この展望と、日本第三の高峰に立った喜びに寒さも忘れる。
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釣り尾根に入ると、案の定、頂上までの風がウソのようになくなる。ジャンダルムの上に人影が見える。天狗に向かう花谷氏のパーティーのようだ。岳沢から上高地まで一目だ。北穂〜涸沢岳間を通ってきたことからか、若干余裕が見られる。
吊り尾根から見ていると、「重太郎新道というのはすごい所を下っているのだな」と思う。
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最低コルから、前穂高に直接行けるようだが、紀美子平へ行って往復することにする。道はほぼ水平道で、支稜を一つづつ丁寧に回り込んで、続いている。
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紀美子平にはたくさんの人がいた。そして休んでいる間にも、岳沢側から何人も上がってくる。
前穂高岳頂上は、無人だった。奥穂、北穂、槍と続く。北穂南稜のジグザグの登山道が明瞭だ。真下に涸沢が見える。
「あそこを登ってきたんだよね」
「足に感謝しなくちゃあ」
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紀美子平からの下りは、鎖と梯子と岩のミックスだ。手こずっている先行者がいた。天気が良いので岳沢や対岸の西穂高岳がずっと見えている。これから降りて行く先が見えるというのは不思議な感覚だ。
「岳沢パノラマ」と書いた大岩を過ぎると、樹林帯に入る。長い梯子をいくつか下る。こちらの紅葉もイマイチだが、涸沢よりも少しはマシか。最後の梯子を降りると「普通の」山道に変わる。
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新装の岳沢ヒュッテで、ここでもコーヒーを注文する。小屋でのビールも美味いが、昼時の小屋でのコーヒーもまた格別だ。これはやみつきになるかな。
良く整備された道を、快調に下る。風穴までくれば、車道までもうすぐだ。昨年雪崩でメチャクチャだった明神南沢の下部は、ちゃんと整備がされていた。
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平日でも上高地には観光客が来ている。紅葉目当てなのだろうが。
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坂巻温泉で汗を流して、締めくくった。
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