「朝焼けがいいときは、雨になる」と、いいながら鹿島槍へ登って行く人がいた。東の空が真っ赤になっていたが、西の空は、真っ黒な雲に覆われている。 |
戻ってきてから撤収する予定だったテントを先に撤収し、ザックをハイマツの脇に置いて、空身で登ることにする。もう残っているのは数張りだった。誰かの予報通り、雨が降り始める。 |
樹林帯を抜け、布引岳の登りになる。中年婦人、2人を追い越す。空身だから調子がいい。上から降りてくるパーティにも幾つか出会う。雨はいっこうにやむ気配がない。左手から容赦なく降りつけてくる。眼鏡が濡れて見にくいのではずす。布引岳の頂上は、左に巻いて素通りする。いったん下って、いよいよ頂上への登りにかかる。鎌尾根の降り口付近には、ホタルブクロが無数に咲いていた。そして、ダイレクト尾根がせり上がってきて、道が東側に回り込み、風が陰になってあたらなくなってホッとするとともに頂上へ飛び出した。数人が雨の中にいた。1パーティが北峰の方に向かっていった。入れ違いに1人登ってきた。何も見えないのですぐに降りることにする。 |
下りは、今度は右手から雨風があたる。しばらく行くと、布引岳の下で追い越した老夫婦とすれ違った。布引岳を左に見て通過し、斜面を滑らないように慎重に降りる。ハイマツ帯の道で、先行パーティが立ち止まっている。近づくと、「グルルルルーー」と声を張り上げて、1羽の雷鳥が飛び立った。彼女は、雷鳥を見ていたのだ。雷鳥はもう、羽先が白くなっている。このパーティを追い越していくと、今度は、ハイマツの中から雄の雷鳥が出てきて、上の方へ走り去っていった。 |
テント場には、もう2張りのテントが残っているだけだった。オオキジを打って小屋へ向かう。小屋の前には、樹林帯の直前で追い越した大学生風の4人パーティが休んでいた。荷物を担ぐとさすがに歩くのが遅くなる。ぐっとペースを落として登る。30分程登って腹ごしらえしていると、4人組が追いついてきた。北峰のすぐ下では、鹿島槍の頂上で出会った人が追いついてきた。都合、6人が列をつくって登る。彼らは爺ヶ岳に登っていったので、そのまま下る。2人の女性とすれ違っただけで、雨の平日という感じがする。 |
種池小屋も昨日とは違って、休憩所に数人いるだけで閑散としていた。みな扇沢へ降りるようだ。昼食をとっていると、鹿島槍の頂上直下ですれ違った中年3人組がやってきて、そのまま扇沢方面へ降りていった。 |
ようやく雨もあがったようなので雨ズボンを脱ぐ。そして出発。時々日が当たるため、暑くなる。雨具も脱ぐ。シロバナヘビイチゴの実が赤く熟れている。シラタマノキの実も大きくふくらんできている。まだ時々雨があたるが、暑くて仕方がないため、Tシャツ一枚になる。扇沢のトロリー乗り場のスピーカーの声が聞こえ始める。扇沢の水の音も聞こえるが、まだまだずっと下だ。種池を先に出た、4人に追いつく。あと「40分」の道しるべがあり、車道を行き交う車の音が大きくなる。「もみじ坂」の標識が倒れている所へくると、もうすぐ車道だ。 |
橋のたもとに2台のタクシーが待っていた。欄干のそばにザックを置き、駐車場まで車を取りに行く。観光バスが何台も上がっていく。無料駐車場は一杯になっていた。車で橋まで戻り、ザックを乗せる。大町温泉で汗を流し、二度目の昼食を食べて、家路につく。帰りは、鬼無里、戸隠経由。 |